ゲッティ

今夜は彼女とデート。
誰もが振り返る8.5頭身に不釣り合いなベビーフェイス。
そう、彼女はみんなの憧れなんだ。
どうゆう成り行きでこの状況にあるのかはいまだにわからない。
当事者の僕がわからないのだからきっと誰にもわからない。
ただひとつ、
「友達の友達」は大事にした方がいいとだけ言っておく。



僕は朝から何度も髪をセットして
一昨日買ったジャケットを羽織り、
何となく着崩した感じを精一杯装って
約束の噴水前に20分も前に着いてしまった。
それから30分程して彼女はやってきた。
彼女のiPodからは日本人が歌う黒人音楽が結構なボリュームで聞こえていた。


僕たちは少し歩いて
彼女が見たいといった映画をレイトショーで見て、
彼女が「超おいしいから」と言うちょっと敷居の高そうなイタリアンのお店に入り、
僕は年に一度食べるかどうかのパスタを食べることになった。
彼女のオススメは「ブルーチーズのリゾット」と「伊勢海老のクリームソース」らしい。
僕はよくわからないまま、
言葉の響きでスパゲッティ・アラビアータを頼んだ。
僕にとってスパゲティと言えば、
ケチャップで色づけされた定食の付け合わせが最も身近な存在であり、
そんな僕には好んでパスタを食べる機会も必要性もない。
ただ、今夜その店で食べたスパゲッティ・アラビアータはべらぼうにおいしかった。
イタリアンとはこんなにうまいものだったのかと、
ファミレスのミートソースをくるくる巻きつけて満足していた自分を心の中で罵り、
まだ見ぬイタリアとイタリア人を大いに尊敬したぐらいだ。


その僕の向かい側で
さっきの映画がおもしろくなかったと言いながら
めんどくさそうに伊勢海老をよける彼女の食べ方が
あまりにもおいしくなさそうだったから
僕はそれが気になって何を話したか、
何を話そうとしていたのか思い出せない。
そもそも彼女に話したいことなんてあったのかすら今となってはわからない。
ただひとつ、
アラビアータとは唐辛子を利かせたトマトソースのことだと知った。