ドアノック


何かを守るために
手放さなければならないものもある。



なんてことは
理屈ではわかってた。



ただ、私には
守りたいものも守るべきものも、なかった。
そして、
手放したくないものも、なかった。
…これまでは。





昨夜、私は気がついた。


今 隣にいてくれる人がものすごく大事で、
自分でもびっくりするぐらい大きくなっていること。
初めて失くしたくないものができたと思った。
これを守るために私はどうすればいい?
私は何を手放せばいい?


…なんてことを真剣に考えた。





これからも一緒にいるなら、
昨夜みたいな夜はきっとまた来る。
つないだ手から体温は伝わるのに
その先に気持ちが見えない。
手を伸ばせば届くところに顔があるのに
その目に映るものが見えない。
隣にいるのにものすごく遠い。
隣にいるのに心が閉じている。
隣にいるのに明日が見えない。


こんな時はドアノック。
何度でもノックする。
たとえ開いてくれなくても、
ちゃんとぶつからないと納得できないのだ。




「大好き」って言葉は
伝えるためにある言葉。
心でいくら思ってたって伝わらない。
伝わるまで何度でも言うのだ。


自分が「どう伝えたか」じゃなく
相手に「どう伝わったか」、
そこに責任が生じる、
私、そう思うのです。





数時間後、
仮眠を抜け出して2人で朝焼けを見た。
ひんやりした朝の空気と
心地よい疲労感と
今までにない充足感。
始発電車を眺めながら
2人で乗ったのもずいぶん前のような気がする
なんて笑いながら。



そんな恋するバカ2人は
この後 現実に戻り、
再び ブースに戻り、
お互いが抱えてしまった厄介な案件に向き合うのです。



こんな毎日。